2014.09.04

ロゴ:平松るい / 文:細馬宏通


うたのしくみ Season2 第5回 コーラスの夜 –ドナルド・フェイゲン『ナイトフライ』–

 ああ、夏もあっという間に終わる。細馬です。こんにちは。

 この夏もたくさん本を読みました。その中でもいっとうおもしろく、また考えさせられたのが、冨田恵一「ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法」(DU BOOKS)です。
 この本は、ドナルド・フェイゲンが1982年に出したソロ・アルバム「ナイトフライ」一枚のみについて、その録音と編集がいかに行われたかについて、緻密に論考を重ねていくというものです。その論考によって、いままでひとつながりのプレイだと思っていたものが、いかに徹底的に考え抜かれて編集された産物だったかが次々と明らかにされていく。分析の解像度はとんでもなく高く、わたしは、かつて毎日のようにきいて、もうすっかり知っているつもりでいたこのアルバムを、この本を片手に、まるで初めてきくようにきき直すことになりました。
 優れた分析を読むと、読んだこちらの認知のスピードまで上がり、その結果見える風景が変わってしまう。一音一音アレンジが浮き立ってくるような感覚を味わいながら、その歌詞の意味を追っていくうちに、アルバム「ナイトフライ」は、かつてきいたのとはまるで違う響きを帯びるようになってきました。アレンジの細部が歌詞の進行を一歩一歩緻密に支え、その意味を照らし出しているのが手に取るようにわかってくる。
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2014.08.14

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うたのしくみ Season2 第4回 ABBAは何人いるのか? –『ダンシング・クイーン』–

 こんにちは。細馬です。Season 2ではもっぱら、歌における複数の声のあり方を考えているのですが、今回とりあげるのはABBAの『ダンシング・クイーン』(1976)です。
 この曲については、昨年の8月、安田謙一さんとNHK FM番組『しりすぎてるうた』で50分かけてお話したのですが(この番組、2014年夏もまたやります http://www4.nhk.or.jp/P3227/26/)、この「うたのしくみ」では番組では触れなかったことも含めて、改めてこの曲について考えてみようと思います。

 その前に、二つほどクイズを。

・ABBAは何人組でしょう?
・メンバーの名前を知っているだけあげて下さい。
・『ダンシング・クイーン』の歌い出しは何でしょう?

 正解はジャケット写真のあとで。

LINK

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2014.07.15

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うたのしくみ Season2 第3回 二つの声の物語 — キリンジ『悪玉』 –

 さて、前の二回は男女のデュエットについて話したのですが、男女に限らず、複数で歌うということには、必ず「いつ、どちらが(あるいは両方が)歌うのか?」という問題がつきまといます。今回は、この問題を別の角度から考えるべく、あるバンドを取り上げようと思います。それは、キリンジです。

 キリンジは1996年から、堀込高樹・堀込泰行兄弟を中心とするバンドとして活躍し、2013年からは堀込高樹がバンド編成の新生KIRINJIを引き継ぎ、堀込泰行が単独で活動を始めました。
 二人の歌声は似ていますが、ごく主観的にその特徴を書くと、堀込泰行の声はより芯があって広いところで響くようであり、一方、堀込高樹の声にはくぐもった粘りがあり、より密室的な感じがします。
 兄弟時代のキリンジでは、多くの曲で堀込泰行がリード・ボーカルをとっていることもあって、キリンジが「デュエット」あるいは「デュオ」と呼ばれることはほとんどありませんでした。しかし、例外的に、二人がともにリードをとる曲があります。その一つが、今回取り上げる『悪玉』(作詞・作曲:堀込高樹)です。アルバム「」に収められたこの曲は、シングル・カットされていないにもかかわらず、ファンの間で人気が高い曲で、わたしの周囲でもこの曲をベストにあげる人が何人かいます。
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2014.06.23

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うたのしくみ Season2 第2回 にじむデュエット「銀座の恋の物語」

 細馬です。このシリーズ、Season2となっておりますが、ではSeason1はどこにあるのかというと、単行本「うたのしくみ」(ぴあ)となっております。絶賛発売中。

 わたしたちはもはや、デュエットという文化をカラオケなしに考えることはできません。いささか酒の入った時間帯に、歌っちゃいなよー、えー、やだよー、とかなんとか言いながら、結局引き受けさせられてしまうひとときの共同作業。担うべき役割は、ピンクと青で塗り分けられた歌詞となって文字列で現れ、メロディーとは裏腹の思いがけなくトリッキーな割り振りに、え、ここわたしの番なの? と驚かされつつも、歌い慣れない風情も愛敬のうち、座によっては誰も聞いちゃいなかったりしますが、それならそれでにくからず思っている相手とよろしく歌えばいいのだし、もし相手がまったくどうでもいい人間なら、義理と割り切ってさっさと片付ければよろしい。
 さて、そんな数あるカラオケ・デュエット・ソングの中でも、「銀座の恋の物語」(石原裕次郎&牧村旬子/作詞:大高ひさを、作曲:鏑木創)は、特異な位置を占めています。カラオケ経験者なら、老若男女を問わず聞き覚えがある、かかった途端に、その場にあやしいもやをかけ、いかにもスナック然とした雰囲気を醸し出す、あの独特の曲調。
 しかし、この曲をしみじみよい曲だと聞き入った経験があるかと言われると、さてどうか。むしろ、あいまいな、とらえどころのない曲という印象が強いのではないでしょうか。あ、また部長が歌うの? 誰と? もう誰とでもいいよ、間延びした歌詞にカラオケ特有のリヴァーブが存分にかかって、ほぼ何を言っているのかわからない、にもかかわらず部長はどうやら、そのもやもやと何を言っているのかわからない感じを相手と楽しんでいる…
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2014.05.26

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うたのしくみ Season2 第1回 二人でやり遂げる歌「とびら開けて」

 ディズニーのアニメーション『アナと雪の女王』は、物語や映像もさることながら、その歌の魅力によって大ヒットとなりました。最近では、ついにシング・アロング版を上映する館まで現れ、映画館内大合唱という事態まで発生しています。

 中でも興味深いナンバーが「とびら開けて Love is an open door」(作詞:クリスティン・アンダーソン=ロペス;作曲:ロバート・ロペス;歌:クリステン・ベル&サンティノ・フォンタナ/日本語版:神田沙也加, 津田英佑;訳:高橋知伽江)です。
 物語の前半に登場するこの曲は、主人公の一人である王女アナと、彼女の国のパーティーに訪れた南国の王子ハンスとが恋に落ち、プロポーズにいたる歌。ジャクソン5を思わせる軽妙な曲調のデュエットですが、その軽さとは裏腹に、なかなかの難曲です。早口で跳躍するメロディーや突き抜けるような高音を正確に歌い、しかもそれをさりげなくきかせるのは、かなり歌唱力に自信のある人でも至難の業でしょう。ましてやこれはデュエット、一人が上手いだけでは不足で、歌自慢の男女が二人揃わねばなりません。
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