2014.09.16

題字:佐藤直樹 / 文:小泉真由子


大江健三郎を読む女たち 001 無敵の語り部サッチャンと、「低いレヴェル」担当

 私は肉体において女性となりながら、この土地で自分の回りを占めている、娘らしい考え方や話し方の幼さが嫌だった。そして自分がこれから望ましい女性として成熟していくことは、時どき自分が自然にそちら側に移っているのを感じる、を自己表現のにかためることではないか、と考えることがあった。

―『燃え上がる緑の木 第一部 「救い主」が殴られるまで』

 サッチャンは両性具有の女性です。生まれてからずっと、一応・・は男性として生きてきたサッチャンですが、18歳の時に起きたある性的なアクシデントが契機となって、女性へと「転換」します。『燃え上がる緑の木』は、そのような過去を持つサッチャンの一人称によって語られる物語。
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2014.09.04

ロゴ:平松るい / 文:細馬宏通


うたのしくみ Season2 第5回 コーラスの夜 –ドナルド・フェイゲン『ナイトフライ』–

 ああ、夏もあっという間に終わる。細馬です。こんにちは。

 この夏もたくさん本を読みました。その中でもいっとうおもしろく、また考えさせられたのが、冨田恵一「ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法」(DU BOOKS)です。
 この本は、ドナルド・フェイゲンが1982年に出したソロ・アルバム「ナイトフライ」一枚のみについて、その録音と編集がいかに行われたかについて、緻密に論考を重ねていくというものです。その論考によって、いままでひとつながりのプレイだと思っていたものが、いかに徹底的に考え抜かれて編集された産物だったかが次々と明らかにされていく。分析の解像度はとんでもなく高く、わたしは、かつて毎日のようにきいて、もうすっかり知っているつもりでいたこのアルバムを、この本を片手に、まるで初めてきくようにきき直すことになりました。
 優れた分析を読むと、読んだこちらの認知のスピードまで上がり、その結果見える風景が変わってしまう。一音一音アレンジが浮き立ってくるような感覚を味わいながら、その歌詞の意味を追っていくうちに、アルバム「ナイトフライ」は、かつてきいたのとはまるで違う響きを帯びるようになってきました。アレンジの細部が歌詞の進行を一歩一歩緻密に支え、その意味を照らし出しているのが手に取るようにわかってくる。
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2014.08.14

ロゴ:平松るい / 文:細馬宏通


うたのしくみ Season2 第4回 ABBAは何人いるのか? –『ダンシング・クイーン』–

 こんにちは。細馬です。Season 2ではもっぱら、歌における複数の声のあり方を考えているのですが、今回とりあげるのはABBAの『ダンシング・クイーン』(1976)です。
 この曲については、昨年の8月、安田謙一さんとNHK FM番組『しりすぎてるうた』で50分かけてお話したのですが(この番組、2014年夏もまたやります http://www4.nhk.or.jp/P3227/26/)、この「うたのしくみ」では番組では触れなかったことも含めて、改めてこの曲について考えてみようと思います。

 その前に、二つほどクイズを。

・ABBAは何人組でしょう?
・メンバーの名前を知っているだけあげて下さい。
・『ダンシング・クイーン』の歌い出しは何でしょう?

 正解はジャケット写真のあとで。

LINK

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2014.07.28

題字:佐藤直樹 / 文:小泉真由子


大江健三郎を読む女たち 000 マーちゃんにみちびかれて

 大江健三郎が好きです。あんまり好きなもので、いつか大江健三郎について何かを書いてみたいとずっと思っていました。ずいぶんと長いことあたためてきた企画です。あたためてきた、といっても、特になにか行動を起こすでもなく、日々の暮らしに追われる中で、ふと思い出しては「なにか書いたら面白いだろうな…」と、ボンヤリ考えているだけで気がすんでしまうといった具合でした。

 大江健三郎の小説の好きな理由はいろいろあるのですが、ひとつあげるなら、大江が描く女たちが好きです。ならば、それについて書くのがいいのではないか、というのが、ここ10数年ほどボンヤリ考えているうちに、私の中でなんとなくまとまってきたことです。

 そうなると、まっさきに思いあたるのが、マーちゃんです。マーちゃんというのは、大江が描く女たちのひとりで、大江健三郎の娘がモデルになっています。マーちゃんの考え方や身の施し方は、これまで幾度も、私の人生において、よきお手本となってきました。そんなマーちゃんが語り手となって繰り広げられる連作短編集『静かな生活』の中に、こんなエピソードがあります。
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2014.07.15

ロゴ:平松るい / 文:細馬宏通


うたのしくみ Season2 第3回 二つの声の物語 — キリンジ『悪玉』 –

 さて、前の二回は男女のデュエットについて話したのですが、男女に限らず、複数で歌うということには、必ず「いつ、どちらが(あるいは両方が)歌うのか?」という問題がつきまといます。今回は、この問題を別の角度から考えるべく、あるバンドを取り上げようと思います。それは、キリンジです。

 キリンジは1996年から、堀込高樹・堀込泰行兄弟を中心とするバンドとして活躍し、2013年からは堀込高樹がバンド編成の新生KIRINJIを引き継ぎ、堀込泰行が単独で活動を始めました。
 二人の歌声は似ていますが、ごく主観的にその特徴を書くと、堀込泰行の声はより芯があって広いところで響くようであり、一方、堀込高樹の声にはくぐもった粘りがあり、より密室的な感じがします。
 兄弟時代のキリンジでは、多くの曲で堀込泰行がリード・ボーカルをとっていることもあって、キリンジが「デュエット」あるいは「デュオ」と呼ばれることはほとんどありませんでした。しかし、例外的に、二人がともにリードをとる曲があります。その一つが、今回取り上げる『悪玉』(作詞・作曲:堀込高樹)です。アルバム「」に収められたこの曲は、シングル・カットされていないにもかかわらず、ファンの間で人気が高い曲で、わたしの周囲でもこの曲をベストにあげる人が何人かいます。
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