music is music デヴィッド・ボウイ論 (前編)

まずはちゃんと歌詞をあたってみましょう。


<歌詞>

Didn’t know what time it was and the lights were low
I leaned back on my radio
Some cat was layin’ down some rock n roll lotta soul, he said(※A)

Then the loud sound did seem to fade
Came back like a slow voice on a wave of phase haze
That weren’t no D.J. that was hazy cosmic jive(※B)
There’s a starman waiting in the sky(※C)
He’d like to come and meet us(※D)
But he thinks he’d blow our minds(※E)
There’s a starman waiting in the sky
He’s told us not to blow it(※F)
Cause he knows it’s all worthwhile
He told me:
Let the children lose it
Let the children use it
Let all the children boogie(※G)

I had to phone someone so I picked on you
Hey, that’s far out so you heard him too(※H)

Switch on the TV we may pick him up on channel two
Look out your window I can see his light
If we can sparkle he may land tonight(※I)

Don’t tell your poppa or he’ll get us locked up in fright(※J)
There’s a starman waiting in the sky
He’d like to come and meet us
But he thinks he’d blow our minds
There’s a starman waiting in the sky
He’s told us not to blow it
Cause he knows it’s all worthwhile
He told me:
Let the children lose it
Let the children use it
Let all the children boogie
There’s a starman waiting in the sky
He’d like to come and meet us
But he thinks he’d blow our minds
There’s a starman waiting in the sky
He’s told us not to blow it
Cause he knows it’s all worthwhile
He told me:
Let the children lose it
Let the children use it
Let all the children boogie

<訳詞>

何時だったっけ灯を暗くして
わたしがよりかかってたのはラジオ
誰かがロックンロールに針を落として「なんともソウル!」って叫んだ(※A)


そのとき大きな音がすっと消えたと思ったら
ゆっくりした声が電波に乗ってうなりはじめて
それはDJなんかじゃない、宇宙の音楽だったんだ(※B)
ほらあそこスターマンが空で待ってる(※C)

わたしたちに会いに来たいんだけど(※D)

興奮させちゃまずいなと思ってる(※E)

ほらあそこスターマンが空で待ってる
興奮をおさえてって言ってる
そしたらすごいことが起こるからって(※F)

あのひとわたしにこう言ったんだ
コドモタチヲカイホウセヨ
コドモタチニテワタセ
コドモタチミンナオドラセヨ(※G)

誰かに電話しなくちゃと思ってかけたのがきみ
わあすごいな、あの声が聞こえたんだきみにも!(※H)

テレビつけてみよう、あのひとが映るかも、チャンネル2で
見て窓の外、見えるよきらきらさせてる
わたしたちもきらきらしよう、あのひと、今夜降りてきちゃうかも(※I)

パパには内緒だよ、ぎょっとしてわたしたち閉じ込めちゃうから(※J)
ほらあそこスターマンが空で待ってる
わたしたちに会いに来たいんだけど
興奮させちゃまずいなと思ってる
ほらあそこスターマンが空で待ってる
興奮をおさえてって言ってる
そしたらすごいことが起こるからって
あのひとわたしにこう言ったんだ
コドモタチヲカイホウセヨ
コドモタチニテワタセ
コドモタチミンナオドラセヨ

(試訳:細馬)


冒頭の空耳歌詞の正体

まず、さきほども言ったように「STARMAN」って、なんか言ってるけどわけわかんない!? ってところから始まる歌なんですよね。この始まり、正体不明のわけわかんない感じこそ、「STARMAN」とのファーストコンタクトなわけです。

そして歌い出しの(※A)はいろいろと面白い箇所です。

まず“ Some cat was layin’ down some get it on rock ‘n’ roll ”というのは、イギリスの人はあまり言わないアメリカンな言い回しになっていて、ボウイ自身もヘンテコな歌い方をしています。「僕イングランドの人間なのに、アメリカンな英語をしゃべっているよね?」ってすこしおどけた調子で。そこに異国っぽさがある。

“ lotta soul ” は「ソウルたっぷり」という意味で「次にかける曲はソウルたっぷりだよ!」と言ってレコードかけるDJのかけ声を真似ているんです。ボウイはちょっとおどけてメロディを外し気味に歌っています。それが合図となり、突然いままで大きかった音が静かになって、ゆっくりとした声が電波の中からワ〜っと流れてくる……。

そこで歌詞を聴いている人は「これだ!」と思うんですね。「ボウイが冒頭でウニャウニャ言っていたのはこの電波の中から流れてくる “ ゆっくりとした声 ” なんだ!」と。

そうするとボウイも「その通り!」といった感じで反応を返します。

ここ(※B)でもちょっとおどけた様子で「それはDJなんかじゃないよ。それは宇宙の音楽なんだよね」っていうんです。ラジオ局でいい曲がかかったというのが合図となって、そこからバーン! と宇宙の音楽に切り替わるというのが前半の歌詞です。

さっきの “ lotta soul ” のところ、実はさきほど観たBBCのライブではそうは言ってなくて“ get it on rock ‘n’ roll ”と言ってるんですね。この“ get it on ”っていうのは T.REX の曲名ですよね。『STARMAN』よりも少し前にヒットした曲なので、それを引用しているんだと思います。ボウイは T.REX にものすごく影響を受けていたので「T.REXがかかって、それが宇宙の音楽になっちゃうのはいいよね?」っていう、そういうセンスでの引用なのかなと。

基本的にここは「自分の好きな曲から宇宙の音楽にいく」というその流れです。地球のロックと宇宙の音楽をDJがパッと繋いでいくようなイメージで歌われていると思います。

ボウイの宇宙的発明

さて“ cosmic jive ”と歌ったそのすぐ後にテテッテテッテテッテ……という音楽に切り替わりますが、これって、どこかで聴いたことあるフレーズじゃないですか? これ、ちょっと前にシュープリームスが 歌っていた『You Keep Me Hangin’ On』ですよね。

ね、これですよね! 当時『STARMAN』に詳しい人は、この曲が頭に浮かんだと思います。シュープリームスの音は、“ ソウル畑の気の利いた音 ”なんですよね。それをボウイはギターをかぶせて、宇宙人の信号っぽくアレンジしています。地球の音楽のフレーズを宇宙的にやる、僕はそこが発明だと思うんです。

……と、いうことに気がつくと、さっきの映画『ウォーク・ハード』に出てくるカバーって、意外とそのセンスがあるんですよ(笑)。このテテッテテって弾くときのバンドの楽しそうなことったら! 宇宙のメッセージだ! いいね! って軽薄なヨロコビに満ちている! その辺はしっかりとやっていて、再度観るとわかるんです。

ね? 彼ら楽しそうですよね(笑)だから、本当はこれいいカバーだなって思ってるんですけど(笑)ある意味『STARMAN』の良さをわかっていながらデタラメにやってるっていう。

これらの歌詞を経て、いよいよ「スタ〜マーン!」のところに入っていきます。

『STARMAN』と『虹の彼方へ』

これは有名な話ですが(※C)の “ starman waiting in the sky ” というところは、映画『オズの魔法使い』で歌われる「虹の彼方へ」の“ Somewhere over the rainbow ”をモチーフにしています。

ちゃんとボウイ自身がそれを意識してやっているライブ音源を見つけたので聴いてみましょう。

こうやってボウイ自身もタネ明かしをしているんです。

そういえば、歌詞の“ waiting in the sky ”は「空を見上げたときにスターマンがいるよね」とイメージすると、「虹の彼方にここではない世界があるわ」というオズの歌詞に通じていますよね。

単にメロディが似てるだけじゃないことは、『オズの魔法使い』がどんな話かということを思い出すとわかります。

『オズの魔法使い』では、カンザスの田舎に暮らす主人公のドロシーが「おとなりのおばさんはとても意地悪だし、すっごい退屈な場所だし、ああ! こんな所じゃなくて、どっかもっといいところがあるはずなのに」と不満をつのらせてる。で、「きっと虹の彼方にはいいところがあるわ〜」と歌い出すのが “ Somewhere over the rainbow  ”って歌詞なんですよね。

その『オズの魔法使い』のセンスと「この地上ってぜんぜん報われないし、退屈なところだけど、そしたらそこにスターマンが突然現れて……」と歌う『STARMAN』のセンスって近いですよね。
このあとに解説する『Life on Mars』にも似たような感覚の歌詞が出てきますが、「この地上ってどうしようもないけれど、ここじゃないどっかにもっと違う場所があって、私はそこに行けるんだ」とか「この地球はビッチだ、これからは超人の時代だよ(ってのは「Oh You Pretty Things!」)」というセンスは、ボウイの歌を聴いていると、そこかしこで登場します。

ボウイは自分のセンスと『オズの魔法使い』のドロシーの気持ちは「同じだよね」と作りながら考えていたんだと思うんです。

だからこのメロディの引用は「有名な歌なので引用しました」ってことではなく、同じ考えを持った者へのシンパシーの表れじゃないかと僕は思います。

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ロゴ:平松るい / 文 : 細馬宏通

        
細馬宏通
細馬宏通(ほそま・ひろみち)
1960年生まれ。現在、滋賀県立大学人間文化学部教授。 専門は日常会話の身体動作研究とメディア史。介護、手話会話、演劇、ゲームなどさまざまな場面で人の動作について考える一方で、明治期以降の塔や絵はがきの果たした役割について論考しています。著書に『浅草十二階』『絵はがきの時代』(青土社)。バンド「かえる目」では、ボーカルと作詞・作曲担当。 ブログ:http://12kai.com/wp/ かえる目:http://12kai.com/kaerumoku/