うたのしくみ Season2 第9回 クイーン『We will rock you』

 この連載では、複数の人々がうたう歌を中心に取り上げてきたのですが、今回は、ある意味でひときわ規模の大きい大合唱曲を取り上げたいと思います。それは、クイーンの「We will rock you」です。

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 わたしが最初にこの曲をきいた10代の頃は、洋楽のことばにあまり耳を傾けてはいませんでした。細かい意味などわからなくとも、曲の雰囲気さえきけば真意はつかめる、そう思っていたのです。「伝説のチャンピオン」とともにリリースされたこの曲の印象といえば、とにかくフレディ・マーキュリーがなにやら威勢のことをいろいろ言って、最後に「We will, we will rock you!」とメンバー全員が声を合わせて歌う、というものでした。フレディの歌う内容はよくわかりませんでしたが、最後のフレーズから想像するに、それは「おれたちのロックンロールといかしたギターでお前らの魂を震わせてやる!」とかなんとか言ってるのではないかと想像をしていました。

 そのうち、クイーンはあちこちのスタジアムで大きなコンサートを開くようになり、この曲を観客が大合唱している映像がテレビで流れたりもしました。さらにのちには、クイーンのいないスポーツ・スタジアムでも、この曲が流れるようになり、サッカーやアメフトの試合前に、集まったファンたちがお互いの敵を倒さんばかりの勢いで大合唱するようになりました。おそらくはこうした光景にヒントを得たのでしょう、2004年に放映されたテレビCMでは、古代のスタジアムを模したフィールドでブリトニー、ビヨンセ、ピンクがこの曲を歌い、その地響きでペプシのボトルを揺らしています。
 そうしたあれこれの光景を見るたびに、わたしはなんとなくこの曲の本当の意味は「おれらはお前らをぶちのめしてやる」ということだったのかなと、漠然と思うようになりました。もちろん、「rock」ということばの意味はもう少し多義的で、そこには「お前らにロックをぶちかましてやる」とか「お前らを感動させてやる」といった意味もあるのでしょうが、いずれにしても、スポーツの場にふさわしい、敵に対して味方の力を鼓舞するような歌だと思っていたのです。

 ところが、ある日、さすがにフレディの言っているフレーズが気になって、よくよく歌詞を調べてみると、その内容は意外なものでした。ブライアン・メイの書いたその歌詞は、早い話が負け犬人生の歌でした。

お前は小僧で(Buddy you’re a boy)大騒ぎ
通りではしゃいで将来は大物
顔は泥だらけ
とんだ面汚し
あちこち缶を蹴飛ばして
歌っているのは (Singin’)
We will we will rock you

 注意したいのは「singin’」という掛け声です。このひとことによって、続く「We will, we will rock you」は、「小僧っ子のお前」と呼ばれている面汚しが歌っている内容であるとわかります。このあと二番では、小僧は若者になり天下をとると豪語しますが、相変わらず「顔は血だらけ、とんだ面汚し」で「自分の旗を振り回して大騒ぎ」。三番では金のない老人となりはてて、なんとか平穏な暮らしをと懇願するものの、やはり「顔は泥だらけ、とんだ面汚し」。誰かにとっとと連れて帰ってもらったほうがいいんじゃないか、と語り手は言います。二番、三番では、「Singin’」という掛け声はなく、かわりにフレディは「歌え Sing it!」と、あたかも合唱を煽るように叫びながらます。ということは「We will rock you」というフレーズは、負け犬人生のテーマ・ソングであるとともに、負け犬人生を憐れんでいることばなのでしょうか。いずれにせよ、原曲の歌詞の内容はすこぶる暗く、スポーツイベントで歌うような曲とはとても思えないのです。
 この意外な歌詞の内容は、英語ネイティヴをも混乱させるようです。歌詞の意味について議論するサイト「SongMeanings」には、クイーンと同世代らしき人のこんな質問が載っています。「わたしは『伝説のチャンピオン』についでこの曲が好きですが、実は歌詞の意味がまるでわからないのです。いったい誰が誰を踏みつけているのか?

 さらに興味深いのは、作者であるブライアン・メイ自身のこの歌に関する発言です。
 「ESPN Magazine」でセス・ウィッカーシャムが2010年に行ったインタビューによれば、ブライアン・メイはこの曲を、劇場で黙ってきく曲として構想していたというのです。実際のところ、少なくとも70年代のロック・ショウでは、観客は歌手の歌を黙ってきくものであり、一緒に歌うなどと言うことは考えられませんでした。
 さらに驚くべきことに、サビの「We will, we will rock you」は、チェコの子守歌の最後で、眠りにつこうとする子供をあやすように歌う「ゆすってあげるよ、ゆすってあげる」というフレーズから着想されたというのです。つまり、この歌の「rock」は元々、ロックンロールでも感動でもなく、ゆりかごを揺する手の動きのことだったのです。
 もしこの曲がブライアン・メイの思惑通り沈黙する観客に向けて歌われ続けていたならば、「We will we will rock you」は、もしかしたら、ボヘミアンの語りに静かに風を吹き入れる「ボヘミアン・ラプソディ」のように、負け犬の人生を鎮魂する厳かな歌として歌われ続けたかもしれません。しかし、観客が大声で唱和することによって、この曲はブライアン・メイも思いもよらぬ強さを持つことになったのです。

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 作者がどのような意図で作ったにせよ、うたはきき手の前で歌われたとたん、きき手にそのことばを差し出し、きき手にその意味を委ねることになります。では、この曲がスポーツ・スタジアムで流れるとき、きき手である観客はどのように歌っているでしょうか。このことを考える上で、YouTubeのクリップをいくつか見てみましょう。


Arsenal Fans singing we will rock you

https://www.youtube.com/watch?v=iFUbMikaQFM

 一つは、サッカー場で撮影されたビデオで、オランダのアーセナルのファンが試合前に歌っているところです。おもしろいことに、アナウンスが流れて観客が雄叫びをあげると、それが止まない間にすぐさま「We will rock you」がかかります。フレディのまくしたてる部分は、ごく一部の客が口を動かしているだけで、ほとんどの観客は呆然と立ちすくんでおり、「We will…」のところでようやく調子が上がってきます。これは非英語圏の反応として典型的なものでしょう。

 もう一つはアメリカン・フットボールのスタジアムで撮影されたもので、やはり「We will rock you」が流れるのですが、その唱和のされ方は少し違います。フレディの語りのうち「顔は泥/血だらけ、とんだ面汚し 、You got mud / blood on yo’ face. You big disgrace」のところで多くの人が唱和しています。つまり、敵を「地べたに這いつくばった泥/血だらけの面汚し」と見立て、「お前らをぶちのめしてやる We will rock you」と歌っているかのようにきこえるのです。
 同じような光景は、2012年のユーロ2012でイングランドがスウェーデンに勝ったあと、スタジオに残ったサポーターたちが歌っている「We will rock you」にも見られます。

彼らの場合は、「顔は泥/血だらけ、とんだ面汚し」からさらに続けて「あちこち缶を蹴飛ばして」「旗振りまくってごくろうさま」「誰かに連れて帰ってもらったほうがいいぜ」のところまで歌っていて、敗者に対する「ざまあみやがれ」感にあふれています。
 最後に、日本航空の応援風景も見ておきましょうか。

音符の割り方が民謡や音頭調になってノリもよく、すばらしいアレンジです。そしてなんと言ってるかはよくききとれないものの、どうやら「We will we will rock you」の部分は、別の歌詞に入れ替わっているようです。
 こうしてみると、スポーツ・イベントにおいて、きき手は「We will rock you」からそれぞれの場面に合う部分を取り出し、そこを唱和したり改変することによって、その場に適した歌として読み替えていることがわかります。いわば、きき手は、唱和という編集を歌に加えることで、その意味を変容させるのです。

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 コンサートがスポーツ・イベントと決定的に異なるのは、そこには歌いかけるべき明確な敵 you がいない、ということです。では、スポーツ・イベントではなく、クイーンのコンサート会場で、この歌の歌詞を感じ取りながら大合唱するとき、それはどんな風に響くでしょうか。わたしは残念ながらフレディが生きていた頃のクイーンのライブに行ったことはありませんでしたが、その映像を見ながら、こんなふうに風に考えています。

 フレディはまず、「お前は小僧で Buddy you’re a boy」と歌い始めます。舞台からフレディに歌いかけられるとき、それはもちろん物語の中の「you」だとわかっていながら、観客はあたかも、フレディが自分に向けて「you」と呼びかけているかのように感じます。物語られる負け犬の話は、どこか遠い世界の誰かのことでなく、おそらく虚勢を張り、うだつのあがらないもう一人の観客自身のことです。
 そして、その負け犬「you」たる自分たちが、「We will we will rock you」と叫ぶとき、それはもはや「you」への子守歌ではない。大合唱する「We」の声によって、「We」は合唱している「私たち」として響き出す。この大合唱は、負け犬人生をあやすような響きでもないし、かといって馬鹿にする響きでもない。むしろ地べたに這いつくばったその泥だらけの面汚しの顔を上げさせるような、地面を揺るがし会場を揺るがす響きです。この曲は、もはや負け犬の遠吠えではない。この会場を大声で揺らしている私たちの歌なのだ。観客はまず、そんな風に感じるでしょう。
 かくして「we」たるわたしたちは、「you」たるわたしたちに向けて大合唱し、負け犬の虚勢を肉声へと転じ、負け犬の遠吠えから魂の叫びへと転じるのです。歌は、泥だらけで面汚しの負け犬を眠らせるどころか、その顔を上げさせ、揺さぶる力を得る。歌いかけられた観客が大合唱で答えることによって、「We will rock you」は、負け犬の人生を引き受け、それを負け犬として揺り動かし、大逆転する歌へと転じてしまうのです。

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 ここにあげたのは、「We will rock you」の唯一の捉え方ではありません。先に挙げたサイト「Song Meaning」には別の意見も載っています。「わたしはこの歌をきくたびに革命の歌ではないかと思うのです。フレディは統治者であり、彼は革命者たる反抗者の群れに向かって語りかけています。彼は、反抗者たちを『面汚し』とののしることでその気をくじこうとします。一方民衆たちは『(おれたちこそ)お前を引きずり下ろしてやるぞ!』と合唱で応じるのです」。これはこれで劇的で、ぐっとくる解釈です。

 どんな解釈をするにせよ、歌に耳をすませ、大声で唱和することによって、わたしたちは、もともとブライアン・メイが着想した子守歌から離れ、この歌の「You」と「We」を自分たちのこととして引き受けることになります。もしあなたが、かつてわたしがそうであったように、「We will we will rock you」だけを唱和してきたのなら、次にこの歌がいつかスタジアムでかかったとき、「顔は泥/血だらけ、とんだ面汚し 、You got mud / blood on yo’ face. You big disgrace」のところも唱和してみるのはどうでしょうか。そして、そのとき、泥だらけでとんだ面汚しと呼ばれているのは、敵ではなく、実は歌っている singin’ 自分たちなのであり、面汚しの自分たちこそが、いまこそこの歌で世界を揺さぶってやるのだ、と考えてみるなら、その大合唱は、いままでとずいぶん違ったものに響くかもしれません。

ロゴ:平松るい / 文 : 細馬宏通

        
細馬宏通
細馬宏通(ほそま・ひろみち)
1960年生まれ。現在、滋賀県立大学人間文化学部教授。 専門は日常会話の身体動作研究とメディア史。介護、手話会話、演劇、ゲームなどさまざまな場面で人の動作について考える一方で、明治期以降の塔や絵はがきの果たした役割について論考しています。著書に『浅草十二階』『絵はがきの時代』(青土社)。バンド「かえる目」では、ボーカルと作詞・作曲担当。 ブログ:http://12kai.com/wp/ かえる目:http://12kai.com/kaerumoku/