第3回:「ペンと線」

 みなさんこんにちは。第1回目、2回目と続けてきた「文字 なぞ り論」ですが、お楽しみいただけていますでしょうか。ふとこれまでの連載を読み返してみると、「文字なぞり」への思いばかりが加速しすぎて、内容がいささかハイブロウかつハードコア過ぎたように思います。もうちょっと基礎的なところから導入しつつ書いてきくべきだったかも、なんて。よって今回はちょっと趣向を変えて、文字なぞりに使われる「道具」について書いていきたいと思います。

 実は先日も文字なぞりに興味あるんです、という人に声をかけられて「どんな道具でなぞっているんですか?」と聞かれました。僕はあんまりなぞってなくてこうして文章書いてるだけなんで、実際の道具については、文字なぞり部のtumblrに掲載されているので、そちらをご覧くださいね、なんて返事をしておいたのですが、その道具をどう使っているのか、ここではその中のペンについてもう少し深く書いていきたいと思います。っていうのはやはり気になるんですよね、あれだけ細い線をどうやって書いてんだっていうのは。それで部長こと佐久間さんに聞いてみました。文字のアウトラインをなぞる時には、その文字の大きさや書体によって使い分けているとのこと。

「▼丸ペン:筆で書かれた文字、明朝体やローマン体、本文サイズ以下の小さい文字をなぞるのに使用。
 ▼ミリペン:大きいゴシック体やサンセリフをなぞるのに使用。
 ▼ロットリング:ミリペンより細い線が引ける。ある程度太さのある小さい文字に使用。
 ▼シャープペン:たまに使う。ヤスリで細くするとなんでもいける。」

 ……ということみたいです。「丸ペン」っていうのは分かります? つけペンってやつです。インク瓶にちょいちょい先っぽを入れてインクを付け足しながら書いていくの。漫画を描くのにも使われてますよね。ミリペンっていうのは一般名詞なのかな、サインペンのほっそいやつです。
 今回のタイトル部分はこれら4種類のペンを使い分けてなぞられています。右上から縦書きで「丸ペン・」が丸ペン、「ミリ」と次の行の「ロッ」はミリペン、「トリング」がロットリングの0.13mm、そして「シャープ」はシャープペンシルの0.3mmの先をヤスリで細くしたもの。以下4文字ずつ繰り返しなぞられてます。

 これまでの連載、第1回第2回の文字はどれも丸ペンでなぞっているとのことで、丸ペンがお気に入りなのかな、と思いますね。ミリペンより全っ然使い勝手がいいのは理解できます。だってアレ、0.03mmとか言っても実際それより太いしペン先の形が半円状だから、紙と接するところがイマイチ分かりにくくてどこからインクが出てくるのか見当がつけにくいでしょう。そういった点からみても丸ペンは「ここからインク出ます」アピールがしっかりとしているので良い、と。 あとちょっと黒が薄いですよね。浅いというか。 だから丸ペンのほうが良いのはじゅうぶんに分かる。

 ただ、佐久間さんは自ら「コピー機になりたい」と言っている人間です。実際僕も「プリンタの出力のように正確になぞりたいのでなるだけ感情やらなんやら邪魔なものを排除してなぞりたいのです。文字にはぁはぁしつつも。」という話を直接聞いています。だったら力の強弱で線の太さを変えられる丸ペンよりも、一定の線幅が書けるロットリングのほうが向いてるんじゃないかな、と思ったりもしますよね。そっちのほうが望んでいる機械の体に近いんじゃないか、と。

 ところが「 ロットリングは紙に触れるか触れないまで浮かせても、ぎりぎりまでそのペンの太さを出そうとします。私の感覚関係なしに一定の線が出てきてくれます。」うんうんそうですよね、それがロットリングだもの。だけど問題はそこじゃなかったんですね。「 一番細い線が引けるのは丸ペンです。」って。そこか!
 ロットリングは安定した極細の線で文字をなぞりることができる、ここまではいいです。ところがいざ細かい字になったときにそれより細い線を書こうと思っても、ロットリングはその太さをキープし続けるわけで、そこを丸ペンは力を弱めることでさらに細い線が書けるよ、というわけです。で、それなりに太い線(といってもロットリング0.13mmで書くくらいの線)でもイケるようになった時点でも、圧力のかけ具合でその線の太さに戻すことができる、と。

 丸ペンよりもさらに細〜〜い線が書けるロットリングが出たら、そっち使いますか? との聞いたところ、「全部一定の細さでなぞれる文字には使うかと思いますが、場所によっていくつかの太さを使い分けなきゃならないときにはロットリングを複数交換しながら使わないといけないので困る。丸ペンだと自分の意志で太さを調整できるからずっとなぞっていられる」ということでした。

 「丸ペンが自分が紙と触れてる感覚に近い線を出してくれるのはかなぁと思います。」むむむ。てっきり機械の体が欲しいと思っていたのに、自分がロットリングに使われるのはご免だ、生身の体がいちばんだ! というメッセージが届いてくるような気すらします。

 では後半は、丸ペンとロットリング0.13mmでなぞった文字の比較なんぞを見てみましょう。

↑なぞり図版はクリックすると拡大表示します

 こちらは「高野切第一種」。小筆で書かれたかなをなぞってます。次は欧文。ハーブ・ルバーリンによる「U&lc(Upper and lower case)」のロゴもなぞってもらいましょう。

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「できあがったなぞりですが、顔を近づけたりルーペでよく見るその違いがわかるのですが、ぱっと見はその差があまりないような気がします。うまくなぞれるかどうかはペンが云々というよりも、私がよく見て丁寧にちゃんとその文字の線を出せたかどうかですね。」ということなんですがどうでしょう。僕はぱっと見どっちがどっちか分かりましたよ。線が均一のほうがロットリングでしょ、っていう選び方じゃないです。 結果は同じかもしれないんだけど、 書かれたアウトラインに抑揚があってそれを書いたときの手の動きがイメージできそう、ってほうが丸ペン。という選び方。

 これは第1回目のときに書いた「その文字をどう思ったか、どう味わったかっていうのをトレペに書き記」してるのが見えてきそう、ってことなんじゃないかと思います。これは僕の勝手な解釈ですけど(いままでもそうでしたが)、なぞられた線に(本当は一定の線を引きたいにもかかわらず)抑揚が見えるのがけっこう面白いことなんです。佐久間さんは「丸ペンとロットリングに円定規を当てて円を書いて気づいたんですけど、ロットリングの機械的な線は定規を当てたときにその真価を発揮するんですね。全然違いました。」といいます。ここでふと、定規を当てて線を引くのは「なぞり」と呼べるのか? という疑問も湧きます。文字なぞり部はフリーハンドを推奨している訳ではないそうですが、たとえば語感としてトレースじゃなくて「なぞり」と言っているあたり、いちいち文字のアウトラインを手でまさぐってる感じが見えてきそうなのが、いい。

 さて、上記の二つは文字のアウトラインをなぞったものでしたけど、じゃあ細かい字をチョクでなぞったらどうでしょうか。以下は「グッドデザイソ・エキシビション2013」のフライヤーに書かれたアオリ文のなぞりです。漢字がゴシック、かなが明朝体の混植となっています。

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 もう、どっちがどっちか分かんないです、正直……。
 ものすごくガン見して比較すると、明朝体は丸ペン、ゴシックはロットリングのほうがキレイに書けてるかなぁ、という印象。
 佐久間さん曰く「拡大したのじっと見てたんですけど、パッと見全体的に安定感があるのはロットリングですが、拡大して一字一字見てると細かい部分追ってる感があるのは丸ペンかもしれないです。」とのことなので、さっそく拡大してみてみましょう。

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 拡大してもどっちがどっちか分かんない……、くらいの精度の高さですが、明朝体を見るとロットリングよりも丸ペンのほうがなぞりの抑揚、起筆・終筆部の脈絡、先端部の細さ、なんていうのが手を器用に動かしてるなぁというのが見てとれます。「さ」とか「め」とか最後の「ジョン」とか。そしてそれはゴシック系にも及んでいて、「輪転機」なんて文字を見ても、たしかに丸ペンのほうが「細かい部分追ってる感」ありますね。ここんとこ、こういうふうに書いてんのかな、って、眺めてる自分の手がうずうずしてくる感じ。なんなんだろ、この攻めてる感。けっきょくハイブロウかつハードコアなところに行きついてしまった。

 こうしてみると道具というよりは指先の延長として、その文字のアウトラインを自分の意志通りになぞるのにふさわしいものを探していった結果、現時点ではそれが丸ペンだった、ということなんじゃないかと思います。ほんとうは指先がちょう細くなって、インク付けて線が書けるのがいちばん良いってことなんだろうか。先の「コピー機になりたい」発言から、ずっと『銀河鉄道999』の機械の体を思い浮べて文章書いていたんだけど、実は『シザーハンズ』のほうが近いのかもしれないな……。

なぞり:佐久間茜 / 文 : 塚田哲也

        
塚田哲也
塚田哲也
大日本タイポ組合ではデザインを通した新しい文字の使い方を探り、新世界タイポ研究会では実際ありえたかもしれない文字の形を探り、グッドデザイソ振興会ではデザイン関連ダジャレを探る。グラフィックデザイナー。電車で好きな部位は座席シートの柄。
佐久間茜
佐久間茜
文字なぞり部部長。文字なぞり歴6年くらい。さまざまな文字をなぞりまくる。デザイナー。箱で気になる部位は一括表示。http://mojinazoribu.tumblr.com/