……と、ここまで書いておいて、上の本文をすらすらをお読みいただいた方もたくさん居ると思うんですけども、実はこれ、なぞられた文字なんですねー。テキストじゃなくて画像なんですよこれがー。文字をひとつひとつ丁寧に見て、なぞられ書かれたテキスト風の画像、なんです。 ヒラギノをなぞっているのでMacintoshで見てる方にはなんとなく自然に、Windowsの場合はちょっと違和感ありつつも読み進んじゃったんじゃないかと思います。ちょっとクラクラしませんか? 僕は相当してます。どうしてクラクラしてるか、というのを今回は書いていこうと思ってます。

 文字なぞり部の部長、佐久間さんはこれまであらゆる文字をなぞっておりまして、それらは文字なぞり部のTumblrなんかにまとまってるので見てもらうといいかと思います。で、これら一連の文字なぞりはトレペにペンで書かれていて、この仕上りを見ると「すげー! 手書きでここまで書けちゃうの!!!」っていうびっくりするほどの繊細さと丁寧さと細密さと人間て凄いな! という風になるわけです。もともとこの連載はそこの賞賛しまくりのつもりではじめたのですが、一回目をやって気付いたのは、ウェブだと現物が見せられないんですね。紙の現物が。やってみないと分からないことっていろいろありますね。 ……でも連載はじまってしまったのでウェブでもしっかりと文字なぞりの素晴しさを知っていただかなければ、と思ってあれこれ考えたわけです。とりあえずはスキャンです。しっかりとスキャン。でそれを貼り付ける、と。結論としては至って普通に。ごくごくシンプルに。トレペの質感とか、どうなぞってんのかっていうメイキングっぽいものはTumblrのほうをご覧いただければということで、こちらでは最終的になぞられた文字だけをスキャンして掲載というストイックな流れで進めています。で、そうしていくうちにふと「最終的に掲載されるのがウェブなんだったら、いっそブラウザに表示されるテキストをなぞってみてもおもしろいんじゃね?」って思いついて、さっそく実験をしてみたのが冒頭の文章だった、というわけです。

 実際にこれまで彼女がなぞってきた文字は、基本的に紙ベースのものがほとんどで、それはきっとトレペをかけて手でなぞるには親和性が高いように思います。だけど、最終的にモニタで見られることを考慮して、そこから遡ってオンスクリーンフォント、つまりモニタに表示された文字を元になぞるっていう行為は、なかなか面白いことだなぁと思いました。

 今回のこの文字なぞりの作業工程としては、まず僕が原稿を書きまして、それをこのモダンファートのフォーマットに流し込んで、そのスクリーンショットをプリントアウトします。それにトレペをかけてなぞっていくわけですが、このスクリーンに表示された文字っていうのが、要するに四角い粒々で表現されている文字なわけです。四角い粒々っていうのは、つまりピクセルって呼ばれているやつです。

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 上のなぞり画像をご覧ください。この解説図版全体がそもそも文字なぞりされているっていうのが相当ややこしかったりもしますが、「A」というのがもともとの文字。それをモニタで表示させたのが、真ん中の「B」っていうやつ。ピクセルで表された状態ですね。ピクセルは本当はもっとちっちゃいんですけど、その差が分かりやすいように拡大してご覧いただいてます。文字の画面上での大きさによって使えるピクセルの数が決まってきますから、「字」という文字を見てみると、上の「うかんむり」の横棒と「子」の真ん中を突っ切っている横棒は、同じ横棒でも表示の仕方が変わってくるんです。ピクセルの分割の位置と、その文字の見え方の微妙なバランスによって、全然見え方が変わってくる。

 で、そのときに、数が限られたピクセルのどれを使っていくとキレイに文字の形を見せられるかっていうのがフォント側の持つ情報で、ヒンティングっていいます。コンピュータで自動に行うだけじゃなくて人間が目で見ていちいち修正したりもしてます。また、それを表示するアプリケーションの側のブラウザなんかではそれをどう表示するかレンダリング技術ってのがあります。そういうふうにして最終的にモニタに文字が表示されてます。

 そういうふうにしてモニタに表示されてる冒頭の文章を、今回なぞってもらいました。つまりピクセルで表示されてる、ギッザギザの、上記なぞり図版ていうと「B」の状態を元にです。そしたら、 上記「C」の状態でなぞられたものが送られてきました。 「B」のピクセル状態を元にしつつも、本来の文字の形になるように、補完しながらなぞったんだそうです。 なんということだ、またしてもキレイななぞりじゃないか……。そんなふうにできてきた冒頭のなぞり図版をもういっかい下に貼ります。等倍だとブラウザの他の文字と変わらなく見えるんですが、下に貼るやつはクリックすると拡大しますのでその文字のなめらかさに注目してください(といいつつこの画像もスキャンしてピクセル化してるのをモニタで見るからややこしい)。

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↑なぞり図版はクリックすると拡大表示します

 そんなふうにしてなめらかに書かれた文字のなぞりなんですけど、スキャンして等倍にして貼ってみると、あら不思議。そこにはあたかもテキストデータがあるようにしか見えないですよね。というかウェブでもたまに見かける「画像になってるテキスト」ってやつ。「これ文章コピペしよ」とか思って選択しようとするとできなくて、うわ画像じゃん! ってなるやつ。あれはPhotoshopとかでテキストを打って、画面で見たそのまんまにgifとかjpgとかに画像化できるからピクセル的にはなんの変化もないわけです。スクリーンショットと一緒で、画面そのまんまを画像に定着させた、っていう状態。

 だけどこれは元は手書きなんですね。ややこしい。手で書いたアナログの線、この手書きの線っていうのはほんとうにたくさんの情報を持っているわけですが(第1回参照)、これをスキャンすると、バッサリとクールにピクセル画像に変換されちゃいます。で、画面で見るとものの見事にテキストデータ(を画面に表示しているピクセル)のようにしか、見えない!

 ためしに上で解説用に使った図版を、25%縮小したものを貼ってみましょうか。

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 ほら、ほとんど同じピクセルにしか見えない! 

 はい、もういっかいあらためて文章で説明しますね。今回、この連載の冒頭でご覧いただいたのは「モニタに表示された文字を元になぞった文字をモニタで見ている」という状況です。本来モニタ上にテキストデータが作るはずのピクセルの四角い点々は、それを元にインクでなぞられて、そのインクの線をスキャンしたデータによって作るピクセルの四角い点々に置き替えられていることになります。だけどモニタ上ではどっちも同じ「四角い点々」なんですよね。通電してるとかそういうレベルでしかない。ここで置き替えられた「 四角い点々」は、テキストデータが作るはずの「 四角い点々」だったのに、なぞった文字が忠実であればあるほど、それをスキャンしたものが作った「 四角い点々」なのか違いが難解すぎて、冒頭に書いたとおり僕はクラクラしてきたというわけです。

 いきなりですけど、トーマス・デマンドっていう作家がいます。彼は実際の現場をほぼ原寸で忠実に紙工作でトレースし再現する作品を作りますが、表現方法は写真なんですね。だから、観る側としては、写真として観ざるをえないので、いちばん最初には形とか色とか、視覚的な印象から入っていって、そのうちに紙っぽい質感を徐々に見出して現実とのズレを少しづつ味わう、そんな鑑賞もあると思います。今回のこの実験、モニタの文字を丁寧に紙とペンでなぞりながら、再びモニタで見るっていうのも、この感触に似たものあるなーって思った次第です。

 もちろん、「文字なぞり部」の基本は、紙にトレペをかけてペンで文字をなぞる行為と、そのなぞった現物あるいはモノクロコピーや印刷したものとオリジナルとの差異を、その手書きの解像度と質感を眼で体感したり、味わうことには変わりは無いと思います。だけどこの連載においては、前回も今回もそして次回以降もずっと、モニタ上で観てもらわなきゃいけないので、今回のこれは、その質感と解像度をオリジナルと揃えることで差異を消し去るような試みをしたんですけども、当連載ではモニタでなぞりをご覧いただきますよ、っていうあらためてのご挨拶と同時に、あたらしいなぞりの表現と鑑賞の方法を探るきっかけにもなったと思います。

 今回、なぞり部長の佐久間さんにはじめてピクセルをなぞってもらったんですけど、彼女曰く「私にはピクセル向いてないなと思いました」とのことです。もともとの線の持つ豊潤な情報量がデジタルにピクセル変換されたとたんに削ぎ落されすぎちゃって、物足りなく感じたんでしょう。だからついつい補完してきれいななぞりを仕上げてきちゃったんだと思います。……と同時に「コンピュータでなく人間が、綺麗な文字を明暗のあるピクセルに置き換えるとどんな文字になるのでしょうかね?」とも言われました。線の情報量をピクセル変換する行為そのものから携わらないと、やっぱり物足りないってことじゃないですかそれ。 文字にトレペかけてピクセル化する活動「文字ピクセル部」発足……なのか!?

なぞり:佐久間茜 / 文 : 塚田哲也

        
塚田哲也
塚田哲也
大日本タイポ組合ではデザインを通した新しい文字の使い方を探り、新世界タイポ研究会では実際ありえたかもしれない文字の形を探り、グッドデザイソ振興会ではデザイン関連ダジャレを探る。グラフィックデザイナー。電車で好きな部位は座席シートの柄。
佐久間茜
佐久間茜
文字なぞり部部長。文字なぞり歴6年くらい。さまざまな文字をなぞりまくる。デザイナー。箱で気になる部位は一括表示。http://mojinazoribu.tumblr.com/