お金がかからなくて空いてて面白い公共施設=ハコモノを求めて節約ミセスが子連れで日本中をうろちょろしまーす!   ( 第1回から読む )

第17回 国立民族学博物館(前編)

膨れあがった財政赤字を削減するため、国際児童文学館などさまざまなハコモノが消えてゆく大阪府。そんな中でも生き残り続ける強力なハコモノ、それが“みんぱく”こと国立民族学博物館。世界中の神様とお祭りと精霊が大集合しちゃってるような、とにかくすごいところなのです。

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岡本太郎に多大な影響を与えたパリの人類学博物館をモデルとして、万博記念公園に創設された国立民族学博物館。日銀総裁の渋沢敬三が学生時代から屋根裏部屋に収集していた民具などのコレクションが前身となっています。加えて岡本太郎がチーフプロデューサーを務める1970年大阪万博のためにアフリカ・オセアニア他から集められた神像や仮面、生活用品などを万博終了後も展示するため、1974年に創設されました。初代館長には、資料の蒐集や同館の設立に尽力した文化人類学者の梅棹忠夫が就任しています。

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いきなりショッキングなカラーリングのエビ棺桶がお出迎え。ガーナ共和国のガー族では、死者の生前の職業や特技にちなんで棺桶が作られるそうです。生前はエビちゃんOLだったのでしょうか。土に還すのがもったいないできばえですが、盛るなら戒名より棺桶で盛ったほうが見た目に面白くて合理的なのかもしれません。娘は「イモムシ!」と言い張ってましたが。

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入り口付近にはいろいろな国の仮面が飾られています。全然違う国なのに、祭りのときの浮かれ仮面はどれもなぜか目と歯をむきだして顔真っ赤。「笑い」というより「怒り」のイメージ。お祭りだからビビらせてこうぜ!というスピリッツは世界共通なんでしょうか。こうしてみると日本の獅子舞も負けずにむきだしです。

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まずは「オセアニア」ゾーンから。神の概念を根底から覆されるユーモラスな神像がいっぱい。一番目立っている白い顔の木彫り像(ニューギニア)は、議論用の椅子。椅子といっても座ってはいけないらしい。話し手が論点を強調するために枝葉の束で叩いたり、話の区切りごとに枝葉を1本ずつ上に置いたりして使うそうです。パワーポイント的な神様?

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「やあ、僕たち先祖の霊だよ。2つの顔で子孫たちを見守ってるよ。え、太陽の塔っぽい? たぶんこっちのほうが先なんじゃないかな〜。僕たち霊だからよくわかんないけどね〜」

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「あたしカヌ子。このエクステ気になっちゃう感じ?」。懐かしのヤマンバっぽいカヌーの船首(パプアニューギニア)。ヤマンバは現代によみがえったプリミティブアートだったのかも……。

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萩原流行を麺棒で平たくのばしたようなパプアニューギニアの仮面。表情だけじゃなくてデカさでも威嚇。

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目鼻口のパーツを強調した強め仮面だけじゃなく、幸薄そうな仮面も(モートロック諸島)。これはお祭りというより、台風などの災害を追い払うための儀礼に使われた仮面だそうです。

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大地や動植物に精霊が宿ると信じているアボリジニが作った木彫りの精霊たち。『世界の中心で、愛をさけぶ』でもヒロインが主人公からプレゼントされ、アボリジニの世界観に目覚めるという重要な小道具として登場します。こんな精霊がそこらじゅうにフワ〜てしてる世界、確かに癒されそう。中央は人魚の精霊「ヨックヨック」、右下はカンガルーの精霊。

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続いて色鮮やかな織物が目をひく「アメリカ」ゾーン。

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メキシコ西部の先住民ウィチョルが都市部に出てから作り始めた毛糸絵「トウモロコシの儀礼」。実物はもっと目が覚めるようなブルーで本当にキレイです。左側のシカっぽい人がシャーマンで、ヒモにぶらさがっているのは子供たちの霊。祭壇の右上のワシが子供たちの霊を神々のもとへ運んでいく、という世界が描かれているらしい。病気をトウモロコシにビームしている右上の犬っぽい人がかわいいです。

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ペルーの聖母像と輿。カトリック信仰が南米に伝わると、こんなギンギラギンな意匠に。

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イエスを裏切ったユダもメキシコにわたると、えらいポップな悪魔人形に。悪の象徴として、お祭りのときにボコられて焼き捨てられる張り子だそうです。こんなあからさまに悪そうなやつ、信用しちゃダメだ。

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メキシコといえば陽気なガイコツが有名。「1人勝ちかよ」「ケツの毛までむしりとりやがって」「もともと骨しかないだろ」「ていうか俺らみんな骨じゃねぇ?」「ウシャシャシャシャ」。湿気の少ない国はガイコツもカラッとして楽しそう。

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アメリカ大陸先住民族・ホピ族が信仰する精霊を表したカチナ(精霊)人形。エルメスのスカーフのモチーフになっているだけあって、色遣いが大胆。

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イヌイットのシャーマンが特定の相手に危害を加えるために使う呪具「トゥピラク(悪霊)」(グリーンランド)。これも谷岡ヤスジっぽくてかわいい。お祭りの仮面が怒ってて、呪いの人形が笑っているというのもなんだか不思議ですが、実際人を呪うときの表情ってこんな感じなのかもしれません。笑顔なのに目が笑ってないという。

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石の彫刻を中心にイヌイット・アートの数々を展示。精霊と踊るクマさん。

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イヌイットのワーキングマザーは子供を肩車して魚釣り。お疲れ様です。

と、オセアニア、アメリカ地域だけでもうこれだけの分量。あまりにバラエティに富んだ祈りや呪いの情念に気圧されたのか、単に暗いのが怖かったのか、このあたりで子供がリタイアしたので休憩することに。

まとめ

世界を長年旅してもなかなか出会えないであろうすごい物件が一堂に会した、ぜいたくな博物館。オバケと精霊と神様、笑いと怒りと怨み、いろんなものが混沌としていて、岡本太郎じゃなくても自分の中の世界観を揺さぶられそうになります。悪いことしたらこんなオバケがくるよ!としつけに使えそうなインパクトの強い精霊たちがいっぱいいるので、子連れにもおすすめ。しかしオバケに本気でおびえる感受性の強いお子さんは避けたほうが無難かもしれません。では、後編に続く!
(2010年5月29日訪問)

国立民族学博物館
住所 大阪府吹田市千里万博公園10-1
交通 大阪モノレール「万博記念公園駅」徒歩約15分、「公園東口駅」徒歩約15分
TEL 06-6876-2151
開館時間 10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日 水曜日(祝日の場合は開館、翌日が休館日)、年末・年始
入館料 一般420円、高校・大学生250円、小・中学生110円(特別展の観覧料は別途)
※団体20名以上で割引
公式サイト http://www.minpaku.ac.jp/

(追記)
7月3日、国立民族学博物館初代館長で名誉教授だった梅棹忠夫氏がお亡くなりになりました。
謹んでお悔やみ申し上げます。訃報によれば「(みんぱくを)新しい知の発見の場にしなさい」という言葉を遺されたとか。
面白い博物館を作ってくださってありがとうございます。

写真・文 : 堀越 英美

        
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堀越英美
子育てママ業を営みつつ、間隙を縫っておもしろ文章を産む機械、って書き方アレだけど、書けば自動的におもしろいのが、demiさんこと堀越英美さんであります。

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