お金がかからなくて空いてて面白い公共施設=ハコモノを求めて節約ミセスが子連れで日本中をうろちょろしまーす!   ( 第1回から読む )

第16回 島津創業記念資料館

奥さん聞きました?肉のハナマサが小惑星タコヤキまでおつかいして粉を持ち帰ってきて日本中が大スーパーなんですって。あらやだスーパーじゃなくてフィーバーよ。カタカナって難しいわね。60億キロもおつかいしたっていうじゃない。そりゃそうよ、ハウステンボスより遠いわよ、100キロマラソンの6000万倍だもの。イモトアヤコ6000万人分よ。感動するに決まってるじゃない。とにかくそれくらい日本の科学はすごいってことよ。

……工学実験探査機「はやぶさ」の影響で、にわかに科学工学へのリスペクトが高まっている気がしないでもない今日この頃。レトロで変な機械がたくさんあると噂の「島津創業記念資料館」に行ってみました。

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京都市の木屋町二条は明治時代、島津製作所をはじめ産業諸施設が設立された本邦の近代科学技術発祥の地。その島津製作所創設の地に創業100周年を記念して建てられた企業資料館が「島津創業記念資料館」です。

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島津製作所が明治44年から大正6年まで刊行していた科学雑誌『サイエンス』。内外の製造技術を幅広く紹介するため、投稿も歓迎していたというから当時の科学の敷居の低さが伺えます。その内容は電気工学や力学はもちろん、西洋料理法に毛はえ薬の研究、ニセぶどう酒の識別法まで何でもあり。すごいぞ科学。表紙イラストも、意味がよくわからないながらもいけいけドンドンです。

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明治44年、二代目・島津源蔵がわずか15歳で本の挿絵をもとに見よう見まねで作ったという「ウィムシャースト感応起電機」。2枚の円盤を逆方向に回すことで、静電誘導の原理で高圧静電気を多量に集める発電機だそうです。あまり複雑そうに見えない(とはいえ仕組みはさっぱりわからない)機械ですが、これで発生した高電圧を利用して、日本で初めてのX線写真の撮影に成功したとか。すごい15歳。

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上記の感応起電機を電源とする実験に使われた避雷針模型(大正2年製造)。大正モダンな洋館風なのがかわいい。

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アンティークな国産最古の顕微鏡(天明元年製造)。さすが江戸時代、説明書が毛筆。そして胴体の謎の模様に南蛮への憧れがほのかに感じられます。

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蒸気反動車(大正2年)。下から熱すると管の先から水蒸気がプシューと噴出して球体がたゆんたゆん回転。やっと原理がわかる機械が出てきて嬉しいけど、役に立つかといえば、あまり立たなそうだ。当時の子供たちをびっくりさせて科学に興味を抱かせるのが重要だったのかも。

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これもきっと驚かせグッズだったのだろう、その名も「魔びん」(大正2年)。魔法瓶ではないのです。もちろんハクション大魔王が出てくるとかでもない。水を入れて側面の数個の小穴を塞ぐと大気圧で水が出ず、塞ぐのをやめると水が出て来るという「魔術的な実験」ができることからこの名前がつけられたのだそうです。今ではみんなが知ってる醤油差しの理屈が大正2年には魔術。

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ラジオプチカン(大正5〜6年)という名前の実物幻灯器。ブリキの感じも名前もかっこいい。

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刺激継出器(昭和4年)。「刺激継出」といっても都会の最先端クラブシーンを毎日ゴキゲンにUstしてくれるとかそういうことではなく、数字をただただ表示し続ける機械です。一時的記憶を検査する装置として、就職試験や職業訓練で活躍。このほかにも穴に棒を挿して手作業の速度をひたすら測る機械などがありました。機械がまだまだおぼつかないので、人間側もいかに機械に歩み寄れるかが職業能力として問われていたんでしょうか。人間力ならぬ機械力。

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弾條台秤(大正7〜8年)。単位が「匁」と「貫」なのがなんだかシュールな感じ。薬局で薬を調合するときなどに使われたそうです。

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昼夜の長短説明器(大正12年)。子供向けの教材でしょうか。真ん中にいる女教師(?)と子供の人形がかわいい。

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子供たちに生命の神秘を伝えるため、明治28年に標本部を新設した島津製作所。こちらは小学校に寄贈された模型の数々です。生命のエロスさえ感じさせるリアルな造型。左上から食用菌類模型、有毒菌類模型、つつじの花模型、イソギンチャク模型、根の構造模型。

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硝子製造順序標本。稲垣足穂の世界。

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牛の眼球標本とサナダムシの標本。夢野久作の世界。

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そのうち人体模型も手がけるようになった標本部。機械同様すごい科学で徹底的に作り込み、138のパーツに分けられるというこれまでにない精巧な人体模型が完成しました。顔立ちや体つきまで日本人としてリアルすぎて怖い。

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この人体模型の技術を応用して、マネキンの国産第1号を製作。西洋風に挑む作家が多い中、二代目源蔵の次男・良蔵は徹底して日本人女性の美を追求したそうです。そして胡粉をかけて肌を磨く京人形の伝統技術を取り入れた純和風のマネキンが。確かに足の太さも超リアル。そして服を売るのにそこまで再現する必要があるのか、という指の関節。夢よりも冷徹な現実を追求する姿がなんだかかっこいいのです。

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そんなかっこいい科学の人になるにはどうすれば? 二代目源蔵が「事業の邪魔になる人」15条で教えてくれます。「金銭でなければ動かぬ人」「艱難に堪へずして途中で屈伏する人」「注意を怠り知識を磨かぬ人」「仕事を明日に延す人」……すみませんすみません。科学の道はきびしかった。もう一枚、「家庭を滅す人」15条もあります。「不用の物を買ひたがり無駄事に多くの時間をつぶす人」は家庭が滅びるそうだから気をつけて!

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子供が自由に触れる実験コーナーもあります。こちらは球体衝突の原理実験器。真ん中のダルマが無駄にかわいい。

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国産初の医療用X線装置「ダイアナ号」。人体転送しそうなものものしさです。X線装置まわりのネーミングはなぜか「ニューオーロラ号」とか「桃山号」とか勇ましい。

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「ダイアナ号」のペーパークラフトが受付で販売されていました。ものすごく難しそうな気が……。

まとめ

あとから「ああ、ここもっとちゃんと撮ればよかった」と思ってしまうオモシロ機械がいくつもあり、自分の機械に対するフシアナぶりを思い知らされました。私は何を見ていたのか。バカの壁、というかメカの壁。私が形容すると「かわいい」とか「かっこいい」くらいしか出てきませんが、実験器具好きなら「ああっこのガラスのぐるんぐるんした曲線が!」という感じでもっと十二分に用の美を堪能できると思います。しかし文系も稲垣足穂になりきったつもりで見れば、うすらぼんやりときめけるのではないでしょうか。幼児も一応大人しく見ていました。おそらくX線周りのものものしい機械におびえていたんだと思います。
(2010年5月30日訪問)

島津創業記念資料館
住所 京都市中京区木屋町二条南
交通 市バス「京都市役所前」下車徒歩約2分、地下鉄東西線「京都市役所前」2番出口下車徒歩約2分、京阪電車「三条」下車徒歩7分
TEL 075-255-0980
開館時間 9:30〜17:00(入館は16:30まで)
休館日 水曜日(祝日の場合は開館、振替休日なし)、年末・年始
入館料 一般300円、中高生200円、小学生以下無料
※団体20名以上で2割引(要予約・案内可)
公式サイト http://www.shimadzu.co.jp/visionary/memorial-hall/index.html

写真・文 : 堀越 英美

        
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堀越英美
子育てママ業を営みつつ、間隙を縫っておもしろ文章を産む機械、って書き方アレだけど、書けば自動的におもしろいのが、demiさんこと堀越英美さんであります。

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