お金がかからなくて空いてて面白い公共施設=ハコモノを求めて節約ミセスが子連れで日本中をうろちょろしまーす! ( 第1回から読む )

第5回 中谷宇吉郎 雪の科学館

UFOとオタマジャクシの降る里・石川県は、一般的には雪が降りがちな地域として知られています。石川県加賀市片山津温泉出身の科学者・中谷宇吉郎は、雪をただただ観察するだけでは飽き足らず、世界で初めて人工的に雪の結晶を作り出すことに成功しました。そんな博士の業績を称えて出身地に誕生したのが、「中谷宇吉郎 雪の科学館」です。雪専門の科学館ということで、ニッチにしてハーコーであることを期待しつつ、雪をイメージした六角形のハコモノの中に入っていきます。

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十勝岳中腹にある白銀荘で、雪の結晶をひたすら撮影し続けた博士。その数、約3000枚。いろんな結晶の形があるんですねえ。

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氷に強い光を当てると内側から雪の結晶のような形で溶けていくという「チンダル像」の実演。「近くに科学館があるから寄ってくか」ノリの温泉客の皆さんも、氷の中で咲く花に「おおー」と大歓声。

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子供たちはアイスボックスの中でダイヤモンドダストを発生させる実験に釘付け。このボケボケ写真だとわかりにくいと思いますが、目の前で見ると超絶キレイです。そりゃユーミンもヒムロックも歌うわ。

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モニターで見るとこんな感じ。これが人工雪のもとになります。

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アイスボックスの中に石けん水の膜を張った針金の輪を差し入れて、金魚すくいのようにダイヤモンドダストをすくうと、みるみる雪の結晶に成長。

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指を刺すと割れずに穴が空きます。ベタな氷点下の世界ですが息をのんで見つめる子供たち。窓の外ではリンゴ売り。それは氷の世界。

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六角形の折り紙で雪の結晶を作れるコーナー。

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氷のペンダントコーナー。熱伝導率の良いモールドに氷を挟み、しばらく待つと、

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アラ不思議。氷の熱をモールドがスピーディに奪うため、氷が鋳型(六花)の形に溶け出します。ロマンチック〜。

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館内のあちこちに博士のエッセイから抜粋されたかっこいい一節が配されています。博士の師匠は随筆家としても知られる物理学者・寺田寅彦。愛用のネクタイを譲られるなど師と大いに通じ合うことがあった博士は、研究のかたわら随筆を多くものしました。ところで「簪(かんざし)を挿した蛇」とはなんぞや。引用元のエッセイを読んでみると、宇吉郎少年が小学校の裏山に棲んでいると信じていた化け物のことのようです。未開の地で科学に無縁の教育を受けた少年が、長じて宇宙の謎についてわずかな情報を頼りに心をときめかせるようになり、結果として科学者の道へ。科学は「自然に対する純真な驚異の念から出発すべき」ものなので、子どもたちが迷信や怪異譚に夢中になっていても阻止してはいけない、というお話でした。ここに来る前にコスモアイル羽咋で子に宇宙人のニセモノを見せておびえさせた母(「第4回 コスモアイル羽咋」参照)、間違ってないですよね。

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戦時中、疎開先の北海道で吹雪に閉じ込められていた博士が、娯楽が何もない中で子どもたちに読み聞かせていた『ロスト・ワールド』(コナン・ドイル)の原書。イラストにも描かれている小学生だった下の男の子はイグアノドンが大のお気に入りで、「イグアノドンの背中に ゴリラが乗ってった 乗ってった」という歌詞の「イグアノドンの唄」を作ってしょっちゅう歌っていたそうです。この少年はその後すぐに栄養失調で亡くなりますが、博士はこの話をもとに随筆『イグアノドンの唄』を出版しました。恐竜好きなのも、すぐに適当な歌を作るのも、今の子供たちと変わりませんねー。

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海老一染之助・染太郎のような浮かれ具合がかわいい博士の写真。海外で学会があるたびに蓄音機とレコードと踊りの小道具を持参して、パーティ後に日本の踊りを披露していたそうです。

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書画にも凝っていた博士自筆の書「雪は天から送られた手紙である」。雪の結晶のイラスト付き。

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博士が絵付をした九谷焼。もちろん絵柄は雪の結晶です。このほかにも雪の結晶モチーフの丸皿や文箱などが数多く展示されていました。趣味にブレがない。

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博士が最後の研究をしたグリーンランド氷河のモレーンの石をしきつめた中庭。人口霧が噴出してこの世の果て感を演出します。あ、書き忘れましたけど同館の設計は磯崎新です。

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中庭を抜けると、柴山潟を一望できる喫茶コーナー「冬の華」に。河童が出てきそうだー。

まとめ

個人名を冠したハコモノというと、作品や遺品が展示されているだけの地味なものが多いのですが、ここは博士のゆかいな人となりがうかがえる面白展示や実験が多くて子供ウケもバッチリです。片山津温泉街のすぐ近くという立地もさることながら、ダイヤモンドダストだの雪の結晶だのロマンチックにもほどがあるので、しっぽり科学館デートをしたいカップルにもいいんじゃないでしょうか。国語の教科書でおなじみ「立春の卵」などの随筆で科学的思考法を啓蒙する一方で、「海坊主も河童も知らない子供は可哀想である。そしてそれは単に可哀想というだけではなく、余り早くから海坊主や河童を退治してしまうということは、本統の意味での科学教育を阻害するのではないかとも思われるのである」(『中谷宇吉郎随筆集』p77)とUMAにも寛容な博士。天から送られた手紙ならぬ空から降ってくるオタマジャクシを見たら、どう解釈してくれるんでしょうか。(2009年8月30日訪問)

●中谷宇吉郎 雪の科学館
住所 石川県加賀市潮津町イ106番地
交通 JR北陸本線加賀温泉駅から車で10分。小松空港から車で15分。北陸自動車道「片山津IC」から車で5分。または加賀温泉駅からCANBUS(市内の文化施設を巡るバス)で55分、「中谷宇吉郎雪の科学館」下車すぐ。
TEL 0761-75-3323
開館時間 9:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日 水曜日(祝日、年末年始は水曜日も開館)
入館料 一般500円、団体420円、高齢者 (満75歳以上)250円、高校生以下及び障がい者無料
公式サイト http://www.city.kaga.ishikawa.jp/yuki/

写真・文 : 堀越 英美

        
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堀越英美
子育てママ業を営みつつ、間隙を縫っておもしろ文章を産む機械、って書き方アレだけど、書けば自動的におもしろいのが、demiさんこと堀越英美さんであります。

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