近年、サウナにとりつかれ現世に帰って来られなくなったとウワサされるマンガ家タナカカツキが、ついに軽い口を開きサウナについて語り出した。サウナに関する名言が読みたいナ、と思ったらサウナ道=サ道をどうぞ。 ( 第1回から読む )
第3回 導師(グル)
前にもちらっと言いましたが、僕が通っているのはスポーツジムについてるサウナなんです。
昼過ぎにジムに行って、軽く運動したあとサウナに移動する――これが日課になってたんですけど、平日の昼間っからジムに行く人は、やっぱフツーの勤め人じゃないですよね。
「この人はふだん何してる人なんやろ?」と思いながら、あるいは思われながら通っていると、「あ、この人よく見るな」みたいな顔なじみがだんだんできてくるんですよ。
のちに僕が「蒸しZ」と命名した男も、そんな常連の一人でした。
歳のころは50代後半あたりでしょうか、胸板が厚い……というか平べったくて、歩き方がマジンガーZそっくり、ロボットみたいなんです。
顔見知りになってからわりとすぐに気づいたんですけど、蒸しZはまったく運動してるふうがないんですよ。完全にサウナが目当て。ジムに着くと同時に、サウナやジャグジーがあるフロアに直行するんです。
で、サウナにポンと入って、水風呂にジャポーーーンといく。僕なんかビクビクしながらやってるわけですけど、彼は完全に「わかってる人」なんですね。
それで何だか教えを請いたい気持ちになったんですよ。「こいつならいいメニューを知ってるやろ、サウナと水風呂のセッションをどういうふうに繰り返してるか盗んでやろう」と。
で、あるとき蒸しZと一緒にサウナに入ったんです。「あいつより先には絶対出ないぞ」と思って、けっこう長いこと我慢しました。
サウナには12分で針が1周する「12分計」があって、ふつうは5、6分のところで出るんですね。けど、そのときはしんどいながらも、かなりの時間いてたんです。
そしたら目線が来るんですよ、あっちの。「向こうは大丈夫なのかな」と思ってチラッと見たら、めっちゃ汗をかきながらこっちを見てる。
しかも「わかってきた?」みたいなほほえみを浮かべながら。
でも正直、僕はまだよくわかってなかったんです。だからとりあえず、蒸しZと同じタイミングでサウナから出て、水風呂に入って……を繰り返しました。そしたらもう、どんっっっっどん気持ちよくなってきたんです。
体が温まってポカポカになるとか、気持ちが開放的になるとか、そんなことだけじゃない。目に飛び込んでくるものすべてが気持ちいい。水風呂のタイルがゆらゆらする様子やサウナの木の格子――視覚からの刺激が最高なんです。
そのときは「わかったよ蒸しZ、これやってたの~!!!!」って、コトバは交わさないけど、もう心の中でハイタッチですよ。彼はサウナに毎日この体験をしに来てたんですね。
蒸しZはこの瞬間、僕にとってサウナの道――「サ道」を教え導いてくれる導師(グル)に等しい存在となりました。