近年、サウナにとりつかれ現世に帰って来られなくなったとウワサされるマンガ家タナカカツキが、ついに軽い口を開きサウナについて語り出した。サウナに関する名言が読みたいナ、と思ったらサウナ道=サ道をどうぞ。
第1回 出会い
サウナにたどりついたきっかけですか? 正直うすうす感じてたんですよね、「あの空間には何かある!」て。サウナってお風呂屋さんとか温泉とか健康ランドとか、けっこうどこにでもあるじゃないですか。だから、何かあるやろ、とは思ってた。
でも「意味わからん」ていう思いもあったんです。ほんっっっっっっっっっっっとに意味わからんかった。もちろんそれまでに何度かサウナに入ったことはあったんですよ。すご〜く長く入って、「もうギブーーーーー!」てところまで耐えてみたこともある。だけど意味わからんかったですよね。
確かにお風呂から上がった後にサウナに入ったら多少スッキリするけど、それだけのためにこのスペースってどうなん? もっと他に使い方があるんじゃないの? サウナ作るくらいならそこ浴槽にせえ、おもしろい薬草風呂作ってくれ、て思てたんです。それにサウナってモワーッとして暑いじゃないですか。世の中「不快指数」ってのがあるくらいで、高温多湿になるほど不快になるはずなのに、それをなぜ「気持ちいい」って言うんやろ? と。
そんな感じでサウナがわからんまま僕は40歳を超えて、いつしかサウナコンプレックスみたいなのが育っていたんです。松田優作は40代で亡くなったけど、「サウナのある家に住むのが夢でした」って言ってて、実際自宅に作っちゃったくらいなんですよ。僕は松田優作より年上になったし、もう年齢的にもサウナでしょ、そろそろ存在意義をわかってもいいやろ、と事あるごとにサウナに入るようにしてた、けど、やっぱりわからんかった。
ちょうどそのころ、家の近くにジムができたんですけど、僕の中ではジムもサウナと同じ位置づけなんですね。ずっと同じところで走ってたりするだけじゃないですか。でも僕はサルに好奇心をプラスしたような人間ですし、「未知なるものをわかりたい」という願望だけは人一倍旺盛だから、「できたからには行ってみるか」と思ってジムに通い始めたんです。
最初のころはちゃんとスポーツをしてて、ストレッチルームにもよく行ってました。他に何があるかっていうと、プールがあってお風呂があって、最終的にはサウナ。「またここにもサウナかい!」と。「とりあえず入ってみるか」とできたてホヤホヤのサウナに入った瞬間、新しい木の匂いがしたんですよ、プーンと。
「わあ、ものすごくええ匂いやん! 蒸し暑ささえなかったら最高にええスペースやん」て木の匂いに満たされながら、いつもより長いこと入っていたわけです。できて間もないジムだったから、完全に独り占めの我が家状態。「暑いなあ」と思いながらリラックスしてボーッとしてました。
サウナの新しさと、木の匂いと、人がいないのと——それでうっかり心が前向きになって、汗だくになって出たところには浴槽が、湯気もまったく出ていない、きれーな水風呂があったわけですよ。水風呂もそれまでは「素人に毛の生えたくらいの芸人が罰ゲームのときに入るもの」くらいに思ってた。サウナで蒸された後に何で水風呂かわかりませんもん。けど、そのときは、新雪に足跡をつけるくらいの気持ちでつま先をつけたんですよ。
<続く>